「何処野 誰夫 博士の超次元アドベンチャー(最終回)」 第5話「記憶喪失」その4 P.N. ズオウ・リアキ ※この物語のあらすじ 冒険家にして考古学者、なおかつ天才科学者の何処野 誰夫博士は、持ち前 の知恵と勇気で多くの発見・発明をし、周囲の人々を騒動に巻き込きこんでい く特異な存在だ。ところがここ数年、メン・イン・レッド通称MIRと名のる 謎の組織集団にさまざまな圧力を受けていた。彼らは真っ赤なスーツに身をつ つみ、重要な発明や発見をした人物のもとを訪れては”政府の者です”とニセ の身分証を提示し、資料提供を拒むと突然口に赤福餅をほおばり「ええじゃな いか」と陽気に歌いながら根こそぎ研究資料や重要証拠物を持ち去っていくと いう恐怖の組織。そして今、「記憶喪室」という偉大な発明で自らを実験台と した直後の誰夫のもとに、再びMIRの魔の手が迫る。シリーズ第一期完結! ? * * * * * * * * * どのくらいの時間がたっただろうか。 誰夫の意識が、現実世界に戻りはじめていた。それと同時に、彼の耳に、何か の音・・・いや、誰かの声?らしきものが聞こえてきた。どこかで、聞いたこ とのある言い回しだ・・・ (・・・じゃないか) 何? (・・・か・・・ええ・・・ないか) まてよ、これは・・・ (ええじゃないか・・・ええじゃないか・・・) ま、まちがいない! (ええじゃないか!!) ハッとして目を開けるッ誰夫!そこにはッ!ヤツらがいたッ! M・I・R! 赤服の男たち!! 口を赤福餅でもくもくさせながら、誰夫の回りを例のごとく陽気に踊っている! しかも今回は尋常な人数ではない!すくなくとも20人以上はいるようだ。お かしい、この「記憶喪室」の中には、どう考えてもそれほどの人数は入れない のに・・・ ということは・・・そうか、しまった! ここは、この場所は、重力異状地帯だったのだ!地球上にはそういったポイン トが少なからず存在し、そういった特異点上の建物には、見た目以上の人員を 収容することができるのだ!さらに、2メートルの大男を160センチの女性 が投げ飛ばすことが可能となる「重力剛を制す」のオマケつき! だからあれほど高速でタライが落下できたのか! 私ともあろうものが・・・見逃していたなんて! なんたることだッ! これでは、ポラタ宮殿に帰って来たタライ・ラマがタライま〜〜〜でおかへり 〜〜〜ではないか! これはいかん! 誰夫はすぐにこの場から退去すべく、「記憶喪室」の出口である蜜蜂ハッチへ 駆け出そうとした。だが、体の自由がきかない。動くことさえできない。いつ のまにか、リニアシートに縛りつけられている。しかも「ええじゃないか」の 声は聞こえるが、なにかくぐもった感じがすので、耳にも何かはめられている ようだ。 そして口は・・・開けたまま閉じることができないが・・・なんだろう、なに か妙な感触と味が・・・ そう思った瞬間、全身が緊張し、ガクガクと痙攣をはじめ、汗が滝のように流 れた。 そんなバカなッ! そう・・・ それはまちがいなく、先ほど克服したハズのマロンクリームだった! この体の反応からすると、実験は失敗だったということか? だめだッ!早く吐き出さなくては! しかし遅かった。MIRの一人テープ・スペクターが、すかさず銀色のテープ を口にはりつけてしまったのだ。 これでは、飲み込むことはできても吐き出すことはできぬ! そう思ったとたん、新たな悪寒が全身を襲った。飲み込むなどと・・・そんな 神をも恐れぬ所行を犯すことなど、できるわけがない!だが飲み込めば、少な くとも口の中の嫌な感触と味を、一時的には和らげることができる・・・が、 その後胃の中でじんわりとまた別の嫌な感覚が・・・しかしこのままでは口が ・・・飲み込めば胃の中が・・・しかし・・・しかししかしかかし!!! 誰夫の頭は混乱はしていが、頭のどこかでは冷静な分析もしていた。 大嫌いなマロンクリームを口に大量に投与され、震えが止まらない。体のふし ぶしが痛いし腹の調子も悪い・・・動脈を噛むと血が出るが、そのせいだろう か? 実験の失敗もショックだ。たしかに未知の要素が多かったが、綿密な計算にも とづく一世一代の実験だったのだ。ほら、よくあるだろう?物語の主人公は「 イチかバチかだ!」といってバチに出た試しがないではないか。だから自分も、 必ず成功するという確信があったのだ・・・ さらに予期せぬMIRの侵入、そして拘束・・・いままでも何度か出会っては いるが、あまり我を張らなければ危険もなく、けっこう楽しい連中だと思って いたのだ。そんな気さくな彼らがここまでの実力行使に出るとは・・・ このあと一体、何をされるのか? どうして失敗作である「記憶喪室」のシートに縛られているのか? マロンクリームを口に詰められた意味は? だが分析できたのもそこまでだった。 「飲み込むか込まないか」という恐怖と、そういった分析の結果の不安が、誰 夫の頭を混乱の頂点へといざなう。その証拠に、自分の回りを踊るMIRをサ ッと左右に分けさせて出てきたダビット・ラーキンズ通称プリプリキングに、 いやダビラーに、誰夫は気づいていなかった。 (ええじゃないか・・・ええじゃないか・・・) 踊りは止めたようだが、隊員たちの不気味な合唱はまだ続いている。 ダビラーはゆっくりと隊員たちの前に進み出た。誰夫のすぐ目の前まで近づく。 顔面蒼白となっている誰夫の目は、もはや虚空を仰いでいるだけで、ダビラー の姿を映してはいなかった。 (この男が・・・エイ・リアーンの・・・) 顔にこそ怒の表情は出していなかったが、ダビラーの手は堅く握られ震えてい カシラ たのが、怪しく合唱する隊員たちにもわかった。やばいぜ、頭・・・そんな不 安感が、合唱にも出ているようだ。 隊員たちの動揺に気づくダビラー。 (いかんな、私としたことが・・・この地位に就いたときから、そんな感情は 捨てた・・・) 彼はいつもの沈着冷静さを取り戻す。おかしら、大丈夫かしら?と合唱も落ち 着いたようだ。 (さて、どうする・・・?このまま一気にいくか、それとも楽しむために冥土 のみやげに教えてやろう、とかをやるか・・・?) ドラマではお決まりの台詞だ。組織のボスとなったからには、一生に一度はそ のセリフを言いたくなる衝動に駆られるものなのだ。だが、それを言ってしま えば・・・この絶対的有利な立場が逆転しかねないことを、ダビラーは知って いた。組織内でも作戦においては絶対秘密主義を貫いてきた今までの努力と根 性を、ここで台無しにしては、一族郎党に申し訳がたたぬ。 (私の父・・・ダーレー・ダレラレレン・ラーキンズはそれをやったために・ ・・あんな惨い末路を・・・) 存命中は口やかましい存在にしか感じていなかった父のありがたさというもの を、今このときになって初めて、身にしみてわかるようになるとは・・・先人 の過ちを繰り返すわけにはいかない。 そうとわかれば・・・! ダビラーはゆっくりと、一歩、二歩、三歩さがった。これでイヌの散歩に行く ことができ、コマンドサンポも使うことが加納となった。帰ったらレッツ・カ ノンボールなのはもう避けようがない。 同時に取り巻く隊員たちも、 (ええじゃないか・・・ええじゃないか・・・) と合唱しながらアワ吹いて痙攣する誰夫のシートより後退、ノウ・タリン博士 の掌握した変なコンピュータの前までサガる。虎アパガードはまだ撃てない。 「・・・ですわ」とか「・・・だな」もしくは「・・・だぜ」と言ってもいけ ない。何も足さない、何も引かない、ジャック・ダニソルコンの名言は、この 重力異状地帯でも有効なのだ。だからこそ、20人以上が10メートル四方の 狭い部屋の片側に集まっても、なぜか窮屈にならないのだろう。 誰夫はいまだにシート上で震え続けており、口腔から出るアワの量も半端では ない。 それを見て、「西部劇ウワー」いや「アワー」が観たくなった、隊員たちの先 頭に立つダビラーは、その衝動にどうにか耐え、ゆっくりと右手を上げた。 (ええじゃないか・・・ええじゃないか・・・ええじゃ・・・) 合唱がだんだんと弱まり、ついには止まった。 しばしの沈黙。赤福もくもく。 そして、ダビラーは大きく深呼吸すると・・・カッと目を見開いて、 「ええじゃないかぁぁぁぁぁ!!」 と叫び、勢いよくその手を降り下ろしたまさに次の瞬間! くはわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!! いつのまにか天井に釣り下げられた金色のタライが、再び誰夫落とされたのだ ッ!! しかも勢いよく跳ね返ったタライを受け取ったダビラーはそのままキリモミエ ビ投げハイジャンプで誰夫に突進! そして・・・おお何と恐るべきかダビラーッ!! くはわぁん!くはわぁん!くはわくはわくわくわくわくわ!!! と狂ったようにようにタライで何回も誰夫の脳天を殴打するのだった! その間にMIR隊員たちは「こんなこともあるまいと!」と手に手にアルマイ ト洗面器を持ちムチプリン同じく誰夫に突進!「ええじゃないかあっ!!」と ダビラーと一緒に脳天を強打するのだった! くわくわくわくわ!! ダビラーも! 隊員たちも! 際限なくたのしそーに殴打するのだったッ! くわくわくわくわくわくわくわくわくわくわくわ・・・ そのMIRたちの脳天殴打音はいつはてるともなく続いて・・・精神的にも肉 体的にも極限まで追いつめられた誰夫の意識は、この世からかなり遠のいてい った・・・ * * * * * * * * * 誰夫は夢を見た。 いつごろのことなのか、はっきりしないが・・・現実とも、妄想とも取れる、 おぼろげな夢を・・・ 当時の彼は、日々の糧を得るために、腰ミノ一枚で森をさまよい歩いていた原 始人が、ようやくエラもウロコも水かきさえもなくなって、やっと現代人にな ったころ・・・ コメリカの田舎街ロズウェリに墜落した同胞の宇宙船を救助すべく派遣され たドゥコーノ=ダレイオウは、自船の中でうっかり屁をこいてしまったために 火災が発生、古代インカ帝国滅亡の原因がそうであったようにテトラヒドロン 核融合エンジンを引火させてしまう。仲間を無事救助して星へ帰り一躍ヒーロ ー、愛妻エイ=リアーンと毎日すき焼き(キャトルなんとかという方法で非合 に入手)三昧の野望はもろくも崩れさり、南極へ墜落する。厚い氷によって奇 跡的に冷凍保存状態となった彼は、敗走したナイスドイシの南極秘密基地建設 中に偶然発見、解剖されそうになるも連合ドイシ討伐部隊との戦闘中のドサク サにまぎれて脱出。寒さで死にかけているところを半牛半人のエスキモーモー 族に「伝説の神アイスマン」と間違われ手厚いもてなしをうける。何回も「自 分は神ではない、まちがいだ、あいすまん」と言ったが聞き入れられず、アザ ラシの肉とペンギンの母乳でみるみる成長、ひ弱なイーバ体型から小麦色の肌 を持つゴイスバデーに変身、部族に知りうる限りの知識を与えるとコメリカへ と旅立った。しかしコメリカに墜落した宇宙船とその乗員はすでに政府に回収 されており、危険をおかしてユリア51秘密施設に進入するも変わり果てた仲 間の姿を目撃し「ユ〜リ〜ア〜!!」を51回連呼して号泣、それがもとで精 神崩壊を起こし廃人となる。辞世の句は「あおによし つわものどもが せみ のこえ」にしようかと悩んでいたところを地球人女性に化けたエイ=リアーン が現れたことにより正気にもどり田舎で密かに暮らし始めるが、彼女がヘビー 級ボクサーと駆け落ちしたため「エイリア〜ン!愛してるぞ〜!!」と叫び再 び錯乱、自爆した。このドゥコノ・エクスプロージョンと呼ぶべき大爆発が宇 宙エネルギーの流入点19.5度だったことから、テトラギドロンのアリ?の 力を借りて、奇跡的に精神だけ次元の異なる霊界へとテレポートするが、転生 管理局では生来の地球生命体ではないという理由で局内をたらい回しにされる。 目撃者の証言によるとなぜか彼はたらいをかついでおり、「はたらいた〜はら たいら〜〜〜」と意味不明な言動をもらしていたという。自爆により地上では 生死不明とされていたが、やはり精神不明に改めようかと悩んでいるところを ついにカンニング袋の尾が切れテストで百点、酒はうまいしネーチャンきれい だということで連日のバカ騒ぎを敢行、火がついたラテンの炎は一旦止まるも タンバリンをバリンと破ってしまい、地獄界に落とされる。そのとき確かに「 見たんかーーータンバーーーーー!!」という声が雲間からこだまし、立ち疲 れた神々たちは「イスエ!」と座りだしたという。これが世に言う「ノセタラ ダマスの大暴言信じるものは足すくわれる」である。地獄の荒涼とした大地を さ迷うドゥコーノは、目の前を「遅れちゃうー!ヂゴクぴょーん!!」と走り イタメ ツケタロウ ぬけた薄着のバニーガールを追跡、仏系人の拷問監督官・痛目 漬太郎と出会 う。雇われの身を嘆く彼にアジアコーヒ作り方を教え、「もっともってこい」 との発言に「ネーポンありませんねん」とやりかす。そして「ほっとけ!」と 言われた次の瞬間、線香のにほいが強烈な閃光に目がくらみ、わけのわからぬ まま強引に地上界へと転生させてもらえたのだった。強引矢のごとし。そして 数十年が過ぎ、何処野家の誰夫として成人した精神が異星神な男は、いままで の全ての記憶を魂に秘めたまま、それを思い出すことなくこの世界に生まれ出 てしまい・・・ここまで読んでこられた方は幸せである。心、大門 豊かであ ろうから・・・ザボンガー、ゴー、ゴー!ファイト!!! * * * * * * * * * ハリケン ミキサ 帰りの「オゥローラ」機内で、窓側のダビラーの横に座る針権 美樹裟がたず ねた。 「長官・・・あのままでよろしかったのですか?ええと・・・ドゥコーノ=ダ レイオウをその・・・息の根を止めずに、そのままにして・・・?」 はてしなく続く雲の海原を窓から眺めていたダビラーは、美樹裟のほうを向く と、やっと正式名称を覚えたか、と満足げな表情で、 「上からの命令なのさ・・・雲の上からのな・・・」 と答えた。 美樹裟は、彼が言葉尻の最後で、一瞬だけ憎々しげに目を細めたのを見た。だ から、それ以上聞くことはやめておこう、と思った。 それからダビラーは目をつぶってシートに頭をあずけて、基地に着くまで一言 もしゃべることはなかった。 * * * * * * * * * 何処野 誰夫は、どうなったのでしょうか? ダビラーによる世にも恐ろしい仕打ちを受けましたが・・・死んではいません でした。ただ、その明晰な頭脳と、そして思い出した波乱万丈の人生の記憶す べてを失ったのです。 そのとき、彼はどうしたでしょう? 記憶があっても、自分という存在が何なのかわからなくて気分が悪くなってし まうことがあるのに、本当にわからなくなって、悲しみ、泣き叫んで、誰かに 助けを求めたでしょうか? いいえ、そんなことはありませんでした。 ウソのようですが、彼の心は軽くなったのです。心が、楽になったのです。本 当に自分が何者かわからなくなってしまったけれど、余分な知識や知恵がなく なったぶん、見るもの、聞くもの、感じるものすべてが、新鮮になったのです。 彼は、いやほとんどすべての人間がそうですけれど、もともと好奇心が旺盛な のが私たちです。そして彼は、この世界を自由に動き回ることができます。自 由に、とはいっても、地面に足をつけていなければいけませんから、飛ぶこと はできませんけれども、それでも今の彼にとっては自由なのです。ものすごく 自由なのです。 なぜ、ダビラーが誰夫のいましめを解き、彼を自由にして立ち去ったのかわか りませんけれども・・・きっとこれも「雲の上からの命令」だったのでしょう。 「雲の上」の連中が何者なのかは・・・またの機会にお話するとして・・・ だから誰夫は・・・ 彼は歩いていきます。この世界がどうなっているのか、知りたいからです。太 陽はやさしく輝き、風はおだやかに彼のほほを流れていきます。木の葉がゆれ る音や、小川のせせらぎが、彼にささやいています。 ああ、彼の顔をごらんなさい!とてもうれしそうです! 自由に動けて、見て、聞いて、触って、感じて、考えられることが、とても面 白いのです! これほどありがたいことが、ほかにあるでしょうか? さあ、彼はどこへ歩いていくのでしょう? 私にもわかりません。 でも、もしかしたら・・・! あなたが家を出て、そして五十歩、あるいは百歩、歩いたら、あるいは! ふと、ふりかえって見てください。 そして、ちょっとでも人の気配を感じたら、こう言ってやって下さい。 「あなたは誰? 何処からきたの?」 ひょっとしたら、そこには、ね・・・! なんてったって、このお話は超次元なのですから! 「何処野 誰夫博士の超次元アドベンチャー」 第一期 完 (EOF)